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第322話

奈々は、瀬玲がお金を受け取った後に落ち着きを取り戻したのを感じ、柔らかく声をかけた。「瀬玲、今宮崎家にいるの?私もそっちに向かうから、待っていてくれる?」

「いいよ」

瀬玲は即答した。「私も会いたいのよ」

奈々は一瞬言葉を失ったが、「じゃあ、そこで待っててね。すぐに行くわ」と返事して、車で駆けつけた。車を降りると、奈々は急いで瀬玲の前に走り、微笑んで見せた。そして、瀬玲の背後にある宮崎家の門をちらりと見て、「中には入ってないわよね?」と慎重に尋ねた。

瀬玲は目の前の奈々を眺め、完璧に着飾った彼女と比べ、自分がこの数日まるで落ちぶれたように見えることに気が付いた。自分がこうなったのは奈々のせいだと思うと、彼女に対する憎しみが募るばかりだった。

「どうしたの?私が中に入るのが怖いの?」

奈々は顔色を変え、必死に笑顔を作り直した。「瀬玲、もう怒らないで。私も仕方がなかったのよ」

「そう、じゃあ前は仕方がなかったとして、今はなんで会いに来たの?」

瀬玲が強気に責め立てる様子に、奈々は心の中で彼女を殴りつけたい衝動に駆られたが、弱みを握られている以上、ここで怒りを露わにするわけにはいかなかった。

もし彼女が瑛介に会いに行ったり、宮崎家の門前で騒ぎ立てでもすれば、全てが台無しになるだろう。

「車の中で話そう、いい?」と奈々は提案したが、瀬玲は動かなかった。奈々は気を引き締めて彼女の腕をそっと取ると、「ご家族も最近いろいろ大変だって聞いたわ。私が助けられることがあれば、手伝いたいの。話を聞かせてくれる?」

家族のことを思い出し、瀬玲はしぶしぶ同意して「うん、話をしましょう」と頷いた。彼女を車に乗せると、奈々は宮崎家の門を一瞥し、ほっと胸をなでおろした。

この数日間、瑛介は全く彼女に構ってくれなかった。何度も連絡しても「忙しい」と返され、次第に返信さえなくなった。

誘惑して関係を深めようとしても手立てがなく、二人の間には深刻な問題が生じているのを感じていた。

原因が何であるかは、奈々には明確だった。彼の機嫌は悪くなるばかりで、離婚は進まず、彼女の中にはひとつの不安がよぎり始めていた。

もしかして、瑛介は弥生のことを本当に好きになっているのでは?その可能性が脳裏に浮かんだ瞬間、奈々の心は恐怖で凍りついた。

瑛介は、まだ自分が本当の命の恩人が弥生であると
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